「中国延辺朝鮮族メディアにおける韓国語の影響」 ――― 語彙を中心に ――― ● 発表者:全永男(チョンヨンナム)(大阪大学大学院文学研究科) 【発表要旨】 中国の延辺朝鮮族自治州には、80万人にのぼる朝鮮族が生活しており、そのほとんどは、朝鮮語を自分の母語としている。しかし、90年代に入って、中韓両国の様々な分野における交流の拡大に伴い、延辺の朝鮮語は韓国語の影響を大きく受け始めた。 延辺の朝鮮語と韓国語の関係は、体系の全く異なった外国語同士でもなければ、方言と標準語の関係に決めるにもかなり無理がある。というのは、延辺朝鮮族自治州の成立以来、延辺の朝鮮語は、韓国語と相違点の多い北朝鮮の「ピョンヤン言葉」の規範を大いに受け入れており、また中国語の表現(主に語彙)も受け入れる言語システムも作られていて、すでに中国朝鮮族特有の言語体系を築いてきたからである。そこで、延辺の朝鮮語学界をみても、延辺の朝鮮族における韓国語使用に対して、批判的な態度をとっている学者が多く、延辺にすでに流入して、さらに定着し始めている韓国語(主に語彙)に対して、詳しく分析した論文は、未だ見られない。 しかし、韓国語の延辺朝鮮語への流入を妨げることは、もう不可能であると報告者は考える。科学技術、芸能界、生活用品、飲食などに関する語彙は、これからも増えるだろう。延辺語に流入している韓国語語彙を整理し、それに関して研究することは、延辺の朝鮮語の今後を考える場合、とても重要な部分である。 そこで、本発表は、延辺で刊行されている朝鮮語新聞「延辺日報」、「延辺ラジオテレビ新聞」に載っている語彙を主な調査対象として、その語源が韓国語と判断された202語に対して分析を行い、これからの延辺における韓国語の流れを論じた。 分析は、従来の延辺の朝鮮語の構成、延辺語に流入した韓国語の構成、もともと延辺の朝鮮語になかった韓国語語彙、韓国語語彙による延辺の朝鮮語語彙の変化のパターン、延辺の朝鮮語に流入した韓国語語彙の内訳などからなっている。そして、最後の部分では韓国語が延辺の朝鮮語に与えた影響と延辺における韓国語語彙の今後について、報告者の意見を述べた。
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