在日朝鮮人の朝鮮語継承意識

3世に対する実態調査をもとに―

韓慧英(カン ケイエイ)

これまで在日韓国・朝鮮人(以下、「在日朝鮮人」と称する)の言語状況に関しては、「使用」という観点を用いた研究が多く行なわれてきた。在日朝鮮人社会において、日本語を使うだけのモノリンガル化が進んでいるという研究結果と、朝鮮語を母語とする1世に対し、3世以降の大多数が日本語を母語としているのは現状である。しかし、一方では3世、4世の中で朝鮮語を学習したいという声があることも事実である。そこで、「使用」という観点だけでなく、「継承」するかしないかという若い世代の意識にも注目する必要があると考えられる。本研究は在日朝鮮人3世に焦点を当て、言語継承に関する意識の実態を調査し、自己と朝鮮語との関係付け、朝鮮語継承の目的と言語継承にかかわる要因を明らかにした。

本研究では、背景と経験の異なる20代の在日朝鮮人3世、3人(民族学校に通ったことがある人、日本の学校に通いつつ、朝鮮語を自主的に学習し始めた人、日本の学校に通い、朝鮮語を学習していない人)にインタビューを行った。調査結果をもとに、エスニック・アイデンティティとの関連性、朝鮮語学習、「朝鮮人」との接触という3つの観点から分析し、考察を行った。

3人の語る「朝鮮人」は、親から与えられた「朝鮮人」という属性と、成長過程で自分の実感できる周りの在日朝鮮人の範囲内において一体感を持った「朝鮮人」である。言い換えれば、3人のエスニック・アイデンティティは、在日朝鮮人という域を出ていない。このような3人のエスニック・アイデンティティを前提に、彼らの朝鮮語継承意識は、@本国の人と会話するための語学能力の向上、とA今まで知らなかった自己のルーツへの関心から生まれる意識である、という形で抽出できた。また、3人の朝鮮語継承意識から、在日朝鮮人の間における言語使用が日本語だけを使用するモノリンガル化が進んでいるという先行研究の調査と一致しているように見える。しかしながら、3人に関していうと、朝鮮語の役割は日本での日常生活における実用性よりも、上記の継承意識で現れたように、むしろ本国の人とのつながりとルーツを求めるような知識となることが考えられる。

今後、言語継承意識だけでなく、3世のエスニック活動へのフィールドワークを行い、3世におけるエスニシティに関する意識構造を明らかにしたい。

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