在日コリアン認知症高齢者への介護支援に関する研究
―施設における「ケアワーカー」フォーカス・グループインタビューを通じて―
大阪府立大学大学院 社会福祉学研究科
金春男
1.
研究の背景・目的
言葉が通じなくて、文化や生活様式の違いなどから日本の社会に馴染めないまま在日コリアン一世たちは、既に高齢期を迎えている。特に、在日コリアン高齢者が認知症(痴呆)になると、以前は日本語を話していても日本語が消え、ハングルだけになってしまうこともよくある。そのため、ますます周囲とコミュニケーションをとることが困難になる。このような認知症のコリアンへの周囲の理解不足から、不安やストレスが増大し、症状を悪化させる高齢者も少なくない。
そういった状況を踏まえ、本研究は介護スタッフへのグループインタビューを実施し、在日コリアン認知症高齢者への介護支援のため、配慮しなければならない点を明らかにし、これからの在日コリアン認知症高齢者への「適切なケア」のあり方を検討することを目的とした。
2.
研究の視点・研究方法
1)
調査対象:今回のフォーカス・グループインタビューでは、C市にある在日コリアン認知症高齢者むけの特別養護老人ホームのケアワーカーのうちから、以下の項目に該当する人を施設に選んでもらった。
・ 在日コリアン認知症高齢者をケアしているケアワーカー
・
国籍・男女を混ぜて、A・B施設それぞれ3名ずつ(合計6名)
・
有資格者(介護福祉士又はホームヘルパー)
・
ケア経験が2年以上ある常勤又は非常勤の人
・
今回のグループインタビューの趣旨を理解して、関心がある人
2)
分析方法:ICレコーダーを使用して、逐語録を作成した。グループインタビュー実施中の各場面で、類似あるいは関連した内容が繰り返し討論されたり、テーマが戻ったり進んだりと、情報内容が時間全体に散らばっていることにより、ここでは、私が設定した質問項目のテーマに沿って分析を進めた。それは、実践の場において活用できるものとして、活用性の視点を重視したためである。
3.
研究結果
在日コリアン高齢者の場合、認知症が進んだり、興奮した場合日本語が消え、韓国語になる。結果的にはコミュニケーションができなくなると、ケアワーカーたちは述べている。無論ケアワーカー自身も韓国語の学習の必要性を感じていて、単語だけでも分かったら、毎日みんなもっと楽しく生活支援ができるだろうと考えている。
インタビューのデータを分析した結果、個性を尊重する介護のためには、配慮すべき点は、@在日一世の歴史的経緯の理解、A言葉、B食事、C価値観、D生活習慣の違い、E文化を尊重した行事企画、F文化に配慮した環境づくり、G個人のアイデンティティにつながる本名の使用である。
また、ケアワーカーたちが在日コリアン認知症高齢者の介護の場面で、「工夫」していることは以下である。@観察、A非言語的なコミュニケーション、B雰囲気づくり、C話題の選択、D韓国語学習である。特に、言葉がよく通じない場合、非言語的なコミュニケーションを取ろうとする姿勢が大切である。
4.
結語
調査の結果から見ると、「身体介護」においては、在日コリアン認知症高齢者と日本人に対する対応の違いはない。しかし、「在日コリアンの特徴」を、ケアワーカーたちは身を持って感じていることが分かった。つまり、認知症になっても民族性が個性として発揮されるゆえに、個性を尊重した介護はますます重要であることが明らかになった。