電話相談に基づく外国人住民のライフヒストリー調査報告
     多文化共生センター・中村満寿央

1.阪神淡路大震災と外国人
 当時兵庫県に10万人在住→約8万人が被災
 神戸市の平均外国人登録者数2.9%(全国平均の2倍)
ことばや制度の違いにより日本人とはまた異なった困難に直面した多くの
外国人被災者に向けての多言語による震災情報提供を目的としたボランテ
ィア団体「外国人地震情報センター」(多文化共生センターの前身)が震
災5日後から活動を始めた。

 外国人地震情報センター
13言語での震災情報のニュースレター発行とホットライン
5カ月で約1,000件、ニュースレター6回発行計22,300部
情報に対するメンテナンス→ボランティア活動

情報の発信者(行政等)と受信者(外国人被災者)との間をつなぐ(多言語
化や窓口での通訳)役割をボランティアが担った。
 電話相談の内容
安否確認・避難所・物資の配給 → 解雇・義援金・治療費 
   → 婚姻・労働問題
地震関連の相談から日常的な問題の相談へと内容がシフトしていった。
 問題の要因
 ことばの壁→外国人向けの震災情報が少ない
 制度の壁 →健康保険の枠内でのみ医療費が無償化など
 こころの壁→避難所での日本人とのトラブル
日常いかに「共生」しているかが非常時の問題の現れ方を規定する
 恒常的な活動が必要→95年10月多文化共生センター設立

2.多文化共生センターの活動
 3つの基本理念と活動
・国籍による差別のない基本的人権の実現
 →多言語電話相談、多言語医療相談など
・民族的・文化的少数者への力づけ
 →多文化子ども(外国人児童生徒のサポート)、エスニックメディア
 支援など
・相互協力のできる土壌づくり
 →研修、フィールドワーク、メディアなど

 現在、大阪、神戸、きょうとに事務所。登録ボランティア約2000人
 電話相談→毎週金曜日午後6〜9時、大阪、京都で開催 
大阪8言語:スペイン、ポルトガル、タイ、タガログ、英、中国、
 韓国朝鮮、日本
京都5言語:スペイン、英、中国、韓国朝鮮、日本
 年間およそ800件の相談を受けている→在留資格、婚姻、労働、医療など

3.電話相談にみる外国人住民のライフヒストリー
 多言語生活相談で対応した1,760件のデータを分析し、外国人住民のラ
イフヒストリー(来日から定住にいたる過程)に応じた問題解決の提言
をおこなった。
出身地域(国)別相談件数(N=1760)
 中南米スペイン語圏488件、中国語圏281、ブラジル211、フィリピン210、
欧米英語圏116など→アジア地域が41%、中南米が41%を占めている。

第一言語別相談件数(N=1760)
 スペイン語495件、中国語286、ポルトガル語210、タガログ語209、
 英語123その他23言語→日本語、英語以外を母語とする人が多い。
在留資格の種類(N=888)
 なし241件、日本人/永住者の配偶者等154、定住者144、留就学142、
 就労126、短期滞在41、永住者14など→法務省統計では、永住者37%、
 なし16%、配偶者16%、定住者12%の割合。
滞日期間(N=176)
 〜1週間4件、〜1カ月2、〜半年11、〜1年23、〜3年57、〜5年31、
 〜10年38、10年以上10
都道府県別相談件数(N=1032)
 兵庫県397件、大阪府354、関東94、東海59、京都35、滋賀26→その他
 全国から相談が来ている。
職業別相談件数(N=536)
 学生149件、主婦106、無職90、熟練労働69、工場作業員51、接客32、
 土木建築作業員14など→求職の相談者は無職でカウントしている。
問題発生場面(N=2247)
 入管手続462件、自然災害404、労働341、医療254、結婚離婚193、
 住居192、子ども125、社会保障31、交通事故11、その他234→
 自然災害は阪神大震災時の相談もカウントしているため。
問題発生場面と共生阻害要因
 外国人住民の社会参加を拒む要因として、ことば、制度、こころの壁
が存在すると仮定し、それを「共生阻害要因」と名付けた。問題発生場
面ごとに 原因分析をおこない「共生阻害要因」別に振り分けた。入管手
続では制度の 壁が60%、医療ではことばの壁が60%、総計ではことばの壁40%、
制度の 壁40%こころの壁20%となった。
国籍(地域分類)別問題発生場面
 出身地別に問題発生の各場面の割合を分析した→フィリピン、南米スペイ 
ン語圏で入管手続の割合が多い  
滞日期間と問題発生場面
 滞日期間別に問題発生の各場面の割合を分析した→滞日半年〜1年では住 
居の問題、1〜3年では労働、1〜5年では子ども、5年以上は婚姻と問題 
の内容が変化している。
滞日期間と共生阻害要因
 滞日期間別に共生阻害要因の要因ごとの割合を分析した→制度の壁は一貫 
して存在し、滞日期間が長くなるにつれて、ことばの壁が減少し、こころの 
壁が浮上してくる。
 
ライフヒストリーにともなう問題
 来日初期:ことばの壁(とくに行政窓口)
 留就学から定住:経済的な壁、仕事上のストレス
 就労から定住:制度の壁(とくに医療保健)
 家族形成から定住:子どものアイデンティティの危機
行政への提言
 広く全般的な多言語情報提供、通訳派遣制度の確立
 実効ある救済機関の設置、制度の弾力運用
 NGOとの連携
 共生志向に沿った施策の抜本的見直し
NGOの役割
 ・アドボカシー(政策提言)→平等施策の実現を提言
 ・エンパワーメント(力づけ)→お互いを助け合う関係へ
 ・ボランティアの成長→地域国際化の担い手

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報告書「生活相談情報に基づく外国人住民のライフヒストリーの調査」
多文化共生センター

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