Language shift and maintenance

among Nikkei-Brazilian communities in Japan

 発表者 関西学院大学大学院言語コミュニケーション文化研究科修士課程 

渡辺伸勝

これまで日本においては、アイヌ民族・琉球民族・在日朝鮮人などの間で、日本語への言語移行が起こってきた。そして現在では、彼らのほとんどは自らの民族言語を使用しなくなり、日本語のみを使用するようになっている。こうした民族言語から日本語への言語移行は、激増する新来の少数派言語集団においても起こると予想される。そこで本発表では、新来の少数派言語集団の中でも日系ブラジル人集団を対象にした、浜松市でのアンケート調査の結果を基に、言語移行・維持の測定とそれに影響を与える要因の特定を試みた。

発表者は、まず、SCL(Societal Compartmentalization in Language use:社会的な言語の棲み分け )IGDL(Intergenerational Disparity in Language use:世代間の言語使用の相違)という二つの基準を設け、これにより言語移行・維持を測定できると考えた。SCLに関しては、形式的・非形式的な言語使用域の間での言語使用量が異なるほどSCLの程度が高くなり、言語維持の成立を示唆することになる。逆に、両言語使用域の間での言語使用量が均等に近づくほどSCLの程度は低くなり、言語移行が進んでいることを示唆することになる。IGDLに関しては、家庭における世代間の使用言語が一致しているほどIGDLの程度は低くなり、言語維持の成立を示唆することになる。逆に使用言語の相違が大きいほどIGDLの程度は高くなり、言語移行が進んでいることを示唆することになる。

結果として、1)被験者は形式的な場面では日本語を、そして非形式的な場面ではポルトガル語を使用する傾向があること、2)若年層において家庭内での日本語量が多いこと、3)また、言語意識・民族ネットワーク・コミュニティ活動・民族メディアと、家庭内言語使用状況との間に何らかの結びつきがあることもわかった。この結果からは、現在では民族語であるポルトガル語は維持されているものの、将来的には日本語に移行していく可能性があり、将来の大規模な言語移行を防ぐためには長期的な展望に立った言語計画が必要であるといえよう。