●乾 美紀(いぬいみき)(神戸大学大学院国際協力研究科)
「多民族・多言語国家ラオスにおける少数民族の教育問題」


【要約】
ラオスは、1986年に市場経済メカニズムを導入してから、海外からの投資も急激に増え、
これまで整備されてこなかった教育分野を活性化させる契機にもなった。1991年のラオス
憲法では、全国に散在する少数民族への教育機会を保障しているが、いまだに教育の統一
が困難な時代が続いている。ことに、民族間の教育機会格差は大きいが、その理由とは何
であろうか。
本稿では、ラオスの少数民族がどのような教育問題を抱えているか、現存するデータや現
地調査により明らかにすることである。現地調査は、少数民族モンを調査対象として「ど
のような教育問題を抱えているか」という課題についてインタビュー調査を行った。異な
る視点から調査課題を明らかにしていくため、モンの保護者や教師、少数民族関係者も調
査対象に含んだ。
調査の結果、学校インフラの老朽化、財源の不足、教師の問題などが挙げられたが、同時
に、学校における教授言語の問題、カリキュラムの不適当さの問題が深刻であることが明
らかになった。保護者へのインタビューの結果、学校でモン語が教えられていない、ラオ
語への転換が難しい、カリキュラムが自分たちの生活とかけ離れていると指摘する者が多
く、そのために学校教育に意義を感じないなどの意見が挙げられた。
先行研究や教育省発行のデータを見ると、少数民族の子どもたちの留年率や中途退学率が、
多数派民族の子どもたちと比較して極めて高いことが分かる。1995年の教育省データによ
ると、山岳地帯に居住する子どもたちが中途退学した理由の75%が言葉の問題、つまり
ラオ語での授業についていけないという問題が中途退学に影響しているのである。
確かに開発途上にある国々は、開発を急ぐあまり教授言語を一元化したり、多数派民族を
中心とする同化的な教育政策がとられたりする傾向がある。しかし、少数民族のニーズに
合ったカリキュラムを提供することは、学校インフラを整備することと同じように重要な
ことが本調査により明らかになった。多数の民族を抱える国においては、各民族に平等な
教育機会を与えるためにも、多文化教育的な概念を持った教育政策が重要である。そのた
めにも、ラオスが今後、他の国の教育政策から学ぶことは多いと思われる。

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