「神奈川県内における母語教育の取り組みの現状について」
石井美佳


近年「多様な言語背景を持つ子ども(Language diversity children)」が
増加している。彼らは多様な言語背景を持っており、彼らが第二言語として日本語を学習す
る場合、もともと有する母語を保持伸長させていくことが必要であるとの意見が出されてい
る。また母語は文化的なアイデンティティの根幹をなすものであり、マイノリティの人権と
して母語を学習する権利の重要性があらためて問われている。
そのなかで神奈川県には、民族学校や活動を一時休止しているボランティア団体も含め、
42の母語教室があることが、1998―1999年にかけてココアの会が行った「神奈川県内の母語
教室調査」によって確認された。今回の発表では、この調査をふまえて神奈川県の母語教育
の現状をビデオを交えながら報告した。
神奈川県内で行われている42の母語教室のうち、言語別では、コリアン語が(民族学校の
多さから)最も多く、以下ポルトガル語、中国語、スペイン語、カンボジア語、ベトナム語
、ラオス語、英語、ドイツ語、フランス語となっていた。またボランティアによって運営さ
れているものが半数を占めていた。
これらの教室で学んでいる子どもは3,183人、うち民族学校の子どもを除いた数は508人で
あった。また子どもの年齢は圧倒的に小学生が多かった。自主的に母語を学びたがる子ども
はあまり多くなく、親が強制的に教室へ連れてくることも多いようである(ただし南米日系
人を対象にした教室に関しては、子どもの意識が高く毎回教室を楽しみにしていることが多
いようであった)。しかしはじめはそのようにして来た子どもも、母語力がつくにつれてそ
れが自信につながることも多い。
公立学校とボランティアでの教室開催頻度は週1時間半程度で、年齢も母語レベルもバラバ
ラな子どもを同時に教える“超複式”授業となっているところがほとんどであった。また言
語教育としてはおおむね生活言語レベルの内容となっていることが多かった。言語以外にも
遊びや踊り、歌、楽器の演奏、またイベントを行って、それらを通じて文化を伝えようとし
ている教室が多かった。
これらの母語教室は、民族のアイデンティティを守るためや、子どもの情緒的な安定のた
め、親子のコミュニケーションを円滑にするため、バイリンガル育成のため、帰国後の準備
のため、母語による学力保障のためなどといった目的をもって行われているが、子どもの母
語学習の動機づけの難しさをはじめ、親の協力の少なさや、場所の確保・財政等々の運営面
など困難を非常に大きく抱えており、特にボランティアによる母語教室の多くは継続が難し
い現状にあることが明らかになった。
このような現状から、多様な言語背景を持つ子どもを、親を、教師を、母語教室を孤立さ
せず、地域の中に位置づけ、その上でそれらをネットワークしていくことが重要であると思
われるが、そのためにはこれら母語教室へのマジョリティの支援が求められている。

(参考)
「多様な言語背景を持つ子どもの母語教育の現状―「神奈川県内の母語教室調査」報告―」
中国帰国者定着促進センター紀要第7号(1999)
「神奈川県内の母語教室マップ」 (2000) 自主刊行、神奈川県国際交流協会

 

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