多言語化現象研究会 第8回研究会
「多言語社会」と「外国語教育の在り方」
− 「多様化」をめぐる調査を中心として −
2001年3月6日発表
  岡戸浩子(名古屋大学非常勤講師)
(発表要旨)

近年、経済を中心としたグローバル化、世界規模的な情報のネットワーク化が著しく
進む中で、最近の日本からの海外渡航者数の増加と共に、日本への外国人入国者数の
伸びには著しいものがあり、個人レベルにおける異文化を持つ人々、すなわち外国人
との接触の機会も増えてきたようである。我が国の言語教育について考える場合、
「在住外国人(外国人子女)」「帰国子女」などの近年の日本における言語環境の多
元化にもぜひ着目しておくべきであろう。現在、日本の学校教育における外国語教科
として英語は圧倒的優位に立っているが、他方そのような状況下で「英語以外の言語
(外国語)」を教えている高等学校数が年々わずかずつながらも増加してきている
等、外国語教育の状況も変わりつつある。
本発表では、「多言語社会」と「外国語教育の在り方」について、日本に焦点を当てて
考察し、主として「外国語教育の多様化(英語以外の言語教育)」をめぐる調査結果
を踏まえて、その可能性を探った。
まず、1995年に「英語以外の言語」を教えている高等学校の実態を把握するためにア
ンケート調査を行った(有効回答数89校、有効回答率69.5%)が、その結果を分析し
たところ、「<英語以外の外国語>(教科)に対する意識および認識」に関する問題
が明らかとなった。そこで、日本人の「言語」に対する意識の基底要素を明らかに
し、「日本における言語教育の在り方」の方向性を探る必要性がさらなる研究課題と
して浮かび上がった。
上記のことを踏まえて、1998年に「日本における言語教育の在り方に関する意識」に
ついて<経済関連団体><国際交流関係団体><英語のみを教えている高等学校>
<英語以外の言語を教えている高等学校>を対象としてアンケート調査を行った(総
数1,653のうち、716の団体・学校から有効回答<有効回答率43.3%>を得た)。アン
ケート調査の質問形式の中心となった5段階評定による回答に関しては、因子分析を
行った。
調査結果の分析を通して、「言語教育の在り方」を大きく、「グローバルな視野」
「高いコミュニケーション能力」「ローカルな視野」「(英語以外の)学習言語の選
択」「言語教育の目的」「マイノリティ言語」によって構成されるものとした。ま
た、言語に対する意識に関しては地域によって差が認められた。さらには、地域と
「<英語以外の外国語>のうちで教えるのに望ましい言語」をめぐって考察する上
で、日系ブラジル人が比較的多い豊田市における現状を事例として挙げた。
21世紀を迎えるにあたり、日本では教育をどのようにすすめていくかが重要な課題と
なってきている。言語(外国語)教育の在り方についても百家争鳴である。近年英語
教育の一層の拡充が求められており、将来のグローバル社会に適応するために高い
「英語」能力はますます要求されてくると思われる。しかし、一方、これらの調査結
果から、社会的な声として、あるいは未だ明確な要望としてのかたちをとってはいな
いかもしれないが、各地域や社会におけるそれぞれの分野での「英語以外の外国語」
に対する様々な意識の存在が明らかになった。日本における今後の「外国語教育の在
り方」については、外国語教育の教科としては現在「英語」が主流であるが、「英語
以外の外国語」をも含めたより大きな枠組みから、また例えば「グローバル」と
「ローカル」な視点をも含めた多角的な面から、さらに考察していく必要があるので
はないかと思われる。

参考文献
岡戸浩子(2001)『「グローカル化」時代の言語教育と「多様化」の可能性−外国語
教育に
関する意識調査を中心として−』.名古屋大学大学院国際開発研究科.博士論文.
岡戸浩子(2000)「第6章 愛知県・豊田市における言語サービスに関する事例研
究」.『日
本の地方自治体における言語サービスに関する研究−「21世紀多言語社会への助
走」』.
大学英語教育学会(JACET)言語政策研究会.タナカ企画.

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