●報告者 八木沢直治 ((財)横浜市国際交流協会) 「多言語支援を中心とした外国人住民に対する行政サポート」 【報告要旨】 1990年頃から日本語の不自由な外国人が増加し、現在では、横浜市民の約60人に1人が外国人となっている。これらの外国人にとって、日本の地域社会には、「言葉の壁」・「制度の壁」・「こころの壁」の3つの壁が立ちはだかっている。今回の発表では、多言語による生活情報の提供や通訳ボランティアの派遣など、「言葉の壁」を取り除く横浜での取り組みについて報告した。 1 多言語による情報提供の問題点とその解決に向けて (財)横浜市国際交流協会では、在住外国人が急増しつつあった‘97年、行政、民間団体、外国人など関係機関・団体に集まってもらい、多言語による情報提供のあり方についての検討会を行なった。 その席上多言語情報の読者である外国人から、当時作成されていた多言語による行政案内パンフや生活ガイドブックの中に、「外国人登録」や「外国人登録証明書」という言葉が何種類にも訳されていたり、施設の名称や住所が翻訳されてしまっていたりするために、かえって読者には分かりづらいとの指摘がなされた。 事例1.「 ひとつの言葉が何種類にも訳されている」 「外国人登録」 1.Alien
Registration 事例2.「住所表示が翻訳されている」 住所:西区港湾未来2-2-1-1 里程碑大厦13楼 論壇横浜信息庫 そこで当協会では、多言語情報の制作担当者向けに、留意事項をまとめた『多言語情報作成マニュアル』(1999年)と併せて、翻訳語の統一を図るための『多言語標準訳語集』(英語版、中国語版、ハングル版―1998年 スペイン語版、ポルトガル語版―1999年)を関係者の協力を得ながら作成した。(当協会URL
http://www.yoke.city.yokohama.jp/で閲覧できる) 現在8言語(上記5言語、インドネシア語、ベトナム語、やさしい日本語)によるニュースレターを月刊(ベトナム語、隔月間)で発行しているが、これらの翻訳作業にも『標準訳語集』が大いに役立っている。 2 通訳ボランティアの派遣 「言葉の壁」を低くする取り組みとして、全国的に行われているのが通訳ボランティアの活用である。昨年6月、日韓共催のW杯が開催され、横浜でも決勝戦を含む4試合が行われた。横浜市のW杯事務局では、会場案内や横浜ガイドなどの通訳ボランティアを募集したところ、約7000人の応募があり、参加国32ヶ国全ての言語に対応できる通訳ボランティアが集まった。 一方当協会ではこの間、横浜市の衛生局と協働して、医療通訳ボランティアの募集、登録、研修を行い、W杯期間中という限定付きではあったが、市内の10病院に通訳ボランティアを派遣するシステムを構築した。これらの経験から、医療通訳ボランティアの派遣に伴う問題点が明らかになってきた。 その一つは、通訳ボランティアの誤訳による医療過誤や医療ミスの責任は誰が負うのかという問題である。他都市の事例では、医療過誤の責任をあいまいにしたまま、医療機関に通訳ボランティアを派遣するケースも見られる。その場合、通訳ボランティアが病院や通訳をした外国人から、賠償責任を問われる事態も想定されかねない。 そこで今回の派遣に当たっては、医療通訳ボランティアを病院の準スタッフとして位置づけることによって、万一誤訳による医療過誤があったとしても、病院が加入している「病院賠償責任保険」で対応してもらうことが可能となった。昨年から神奈川県でも医療通訳ボランティア派遣のモデル事業が実施されているが、そこでもこの横浜の方式が採用されている。 もう一つの問題は、通訳ボランティアの交通費(横浜では3000円/1回)を誰が払うのかということである。横浜のケースでは、1ヶ月間という短い期間であったことから、行政が交通費を支給をしたが、神奈川県の医療通訳の派遣事業では、現在受益者負担の考え方が打ち出されている。通訳ボランティアを受け入れる病院側が負担をするのか、外国人患者が払うのか、行政は負担しなくてもよいのかなど、様々な考え方が出されまだ結論に至っていない。 3.外国人の子どもたちの学習支援 外国人が集住している多くの地域では、学校だけではなく地域のボランティア団体や国際交流協会なども、外国人の子どもたちの教育支援に関わり始めている。横浜でも同様の傾向にある。 横浜市内の公立小中高校に在籍している外国人児童生徒は、2002年5月現在、約2300人で、日本語指導が必要な生徒は約600人にとなっている。 日本語指導が必要な外国人の子どもが5人以上いる学校には、国際教室が設置され、日本語の指導を中心に教科の学習指導なども行われている。当協会では、横浜中華街に隣接する公立中学校と協力しながら、同校の国際教室に、中国語の通訳ボランティアを派遣し、教科学習の支援を昨年12月から始めた。 国際教室での教科指導は、主に教師と生徒が1対1で日本語による指導が行われていたが、そこに中国語の通訳ボランティアが入ることで、生徒たちは先生の言っていることがよく理解できるようになったり、先生によく質問するようになったことが報告されている。また教師の方からは、生徒がどこでつまずいているのかが把握でき、指導の工夫が立て易くなったなど、通訳ボランティアの派遣を評価する意見が寄せられている。 今回試行的に行った母語を生かした学習支援の試みであるが、その効果は確実に上がっているように思われる。現在報告書を作成中である。 4.外郭団体としての国際交流協会の役割 地域国際化協会と呼ばれる組織は、現在全ての都道府県および政令都市に設置されている。その多くは、行政の政策に基づいて、民間の立場で事業を実施する外郭団体という組織の形態をとっている。 当協会では、これまで外国人支援の事業の実施に当たり、行政、NPO、外国人など立場の異なる機関・団体の人たちと協働しながら様々な事業を行ってきた。横浜での経験から言えることは、地域国際化協会は、外郭団体として「官」と「民」の両面を持っていることで、行政、NGO、外国人など立場の異なる地域の人々を繋ぐコーディネーターとしての役割を果たすことができるということである。行政改革が叫ばれる中、私たちはこれからも外郭団体としての長所を活かし、地域のコーディネーターとして外国人の抱える様々な課題や問題の解決に向けて、各種の事業を積極的に行っていきたいと考えている。
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