共同研究「日本の多言語化現象についての総合的研究」研究会 2001.3.7   


  「中国帰国者の言語世界」要旨      中国帰国者定着促進センター:安場淳


●「中国帰国者」とは誰を指すのか


 @ 残留孤児・残留婦人(終戦時の年齢による区分)…孤児のほとんどは中国語が母語(ごく少数、言語的マイノリティ*)
 A @の配偶者 …ほとんどの場合、中国語が母語(ごく少数、言語的マイノリティ*)
 B @の子および孫  国費で同伴帰国できるのは1世帯のみ  ※すでに四世の時代に入っている
  ※後からの「呼び寄せ」家族の存在 →受けられる援護施策の違いによる言語環境の違い

*・中国東北地区の少数言語グループの場合(朝鮮/モンゴルなど)、母語教育の機会は求めれば得られるが、主流言語である漢語での教育を選ぶ場合が多い  →中国国内ですでに母語が失われていることになる
  例)漢族家庭に嫁いだ朝鮮族の女性。家庭でも漢語のみ
 ・ごく稀に日本語を母語として保持してきた孤児本人・婦人本人、二世の言語摩滅/思い出し
   cf)在日韓国朝鮮人一世世代の母語への回帰現象  →(庄司:北欧でも同じ事象が問題になっている)

●中国帰国者の言語を巡って
◎子ども…・「母語」(主として中国語)喪失の問題
     ・「学習言語」と進路保障を巡る問題、読み書きの世界からの縁遠さ  →情報からの疎外
  ↓  ※滞日期間・来日時年齢・学年・支援状況によってその後の社会的状況に違いが ※鍛治(2000)
◎二三世…・言語の自然習得の臨界期以降?〜人格形成期の来日の場合 
      →いわゆる文化的アイデンティティの問題、バイリンガル的不全観  ※大久保(2000)
     ・未婚者の場合、配偶者選択の問題                 ※綱島(1997)
     ・三世誕生に伴って発生する子どもの保護者としての立場 
        家庭での中国語環境の保持?(配偶者の言語/同化志向の程度)、"学習言語"の習得を促進し得る家庭環境を作れるか
◎一世 …・高齢化自体に起因する孤立や健康問題など
     ・家庭内での(言語的文化的)孤立、地域社会からの疎外あるいは集住地域(団地)のゲットー化
      ※孤児本人と配偶者とで異なる対日本語態度(同様に日本語ができない場合でも)
      ※高齢の帰国婦人の場合、保持されている戦前的な価値観との葛藤
     ・中国語媒体の普及…ケーブルテレビ、中国語新聞

★VTR 列島スペシャル『新しい祖国に輝く−中国残留孤児二世三世は今
−』(NHK-BS、2001/3/4)
★ http://www.kikokusha-center.or.jp/
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大久保明男(2000)「アイデンティティ・クライシスを越えて」、蘭信三編著『中国帰国者の生活世界』、行路社。
鍛治致(2000)「中国帰国生徒と高校進学」、蘭信三編著『中国帰国者の生活世界』、行路社。
綱島延明(1997)「中国帰国青年の結婚問題に見る日本社会の異文化受容」、『北辰』第3、4号、北辰社。

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